下村敦史さんのミステリー小説『生還者』を紹介します。
価格:792円 |
ヒマラヤ山脈東部の世界第3位の高峰、カンチェンジュンガで発生した大規模な雪崩に巻き込まれた日本人登山者7名。
彼らのうち、34歳の若さで命を落とした増田直志の兄は、4年前に登山をやめたはずだったのに、なぜその雪崩に巻き込まれたのか。
遺品のザイルが切断されていたことから、事故死ではなく誰かによる殺害の可能性が浮上する。
真実を追い求めるため、同じ山岳部出身の増田は女性記者の八木澤とともに、高峰に隠された謎に挑む――。
物語の核心に迫るのは、生還者たちの証言
絶望視されていた生存者の中で奇跡の生還を果たしたのは、高瀬という男性。
彼は単独行中に猛吹雪の中で増田の兄たちの登山隊と出会い、助けを求めるも冷たくあしらわれたと証言する。
しかし、登山隊の一員である加賀谷だけが彼を助けようと残ったという。
加賀谷は行方不明のままだが、マスコミでは英雄視される中、さらに救助されたのは東という男。
東は一転して、高瀬が嘘をついており、加賀谷こそが卑怯者だと語る。
果たして、二人の生還者の証言はどちらが真実なのか?
登山の背景と人間ドラマが織りなすミステリー
『生還者』は、登山という特殊なシチュエーションを舞台に、家族や仲間が真実を求めて葛藤する姿が描かれています。
雪崩で巻き込まれた過去と、生還者の証言が絡み合う中で、増田と八木澤は再びカンチェンジュンガの山に挑むことに。
物語の進行と共に、少しずつ明らかになる真実は読み手の胸を打ち、終盤にはすべてのピースが鮮やかに収束します。
『生還者』の魅力
物語の展開は「大雪崩から奇跡的に二人の登山家が生還し、お互いに相反するコメントを発表する」というシンプルな構図ながら、家族や仲間の思いが交錯することで深みを増しています。
登山経験のない読者でも、詳細な情景描写と精密な登山情報により、その臨場感を味わうことができます。
また、ストーリーの進行がわかりやすく、読みやすかった。
特に結末では、逆転劇が描かれており、読後の爽やかな感覚が心に残る作品です。
おすすめポイント
『生還者』は、ミステリー好きな方はもちろん、登山愛好者や人間ドラマが好きな方にもぜひ手に取っていただきたい一冊です。
緊張感漂う登頂シーンや、登山家たちの秘められた過去、そして愛憎が交錯する中で織りなされる推理小説としての魅力が満載です。
登山と推理、そして人間の葛藤が絶妙に絡み合うこの物語をぜひお楽しみください。